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「好きだと言われないとわからないのか?」

 私は現在佐久早君に怒られていた。どうしてこうなったのかは覚えていない。ただ、恋愛めいた話をしていた気がする。今の雰囲気は、ちっともそれらしくないのだけど。

「えっと、佐久早君が私のこと好きなんだよね?」
「愚問だ」

 羞恥を噛み殺して私は尋ねた。すると佐久早君は少し古くさい語彙で素直に答えた。佐久早君には、好きな人に自分の気持ちを知られたくないというような感情はないようだ。

「なら何で怒られてるのかな……」

 私は小声で呟く。私達の距離は狭かったが、迫られているというより先生に叱られている小学生のような印象を受けた。佐久早君だって、これから甘いことをする気はないのだろう。

「普通察するだろ。お前はそれくらいもできないのか」
「すみません……」

 察しろと言われても限界がある。確かに佐久早君の態度は少し気になったけれど、それだけで自分のことが好きだろうと話しかけられるほど私は自分に自信がない。だから佐久早君は痺れをきらしてしまったのだろうけれど。

「わかったら態度を改めろよな。動揺くらいしねぇのか」

 私の態度がさらに佐久早君の怒りを増長してしまうらしかった。私はここで一つ気になった。佐久早君は「態度を改めろ」と言うのみで「付き合え」などとは言わないのだ。この傍若無人っぷりなら、それくらい言ってもおかしくはないというのに。

「返事は? しなくていいの」

 私は純粋な気持ちで尋ねた。言い訳しておくならば、佐久早君を追い詰めてやろうとかからかってやろうなどという気持ちはなかったのだ。しかし佐久早君は顔を赤くして、必死な様子で顔を逸らした。

「お前のくせに俺をフる気か! まだいい!」

 荒々しく去って行く様子を見ながら、ふと考える。我儘に見えて、可愛らしいところもあるものだ。などと考えている私はもう、絆されているのだろうか。