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「子供を作りましょう」

結婚して二週間が経った日の晩、布団の上に正座して信介の方へ体を向けると信介は驚いたように目を見開いていた。

「もう結婚してかなり経ったと思います。そろそろやっても、ええんやないかな」

まだ慣れないタメ口で言葉を終え、私はゴクリと唾を飲み込んだ。

信介と私は高校で出会い、卒業時から付き合いを続けて結婚まで至った。人に言わせれば早い結婚だったらしいが、婚約が成立してからの慌ただしさに比べれば婚約以前は随分穏やかに時が流れていた気がする。住宅街、あるいはマンションの一室に暮らすうちの親戚とは違い、挨拶で訪れる信介の親族の家はどれも立派な門構えだった。信介の親戚の家を訪れる度に、古来から日本にはこんな習わしがあったのだと勉強になったほどである。親戚中を回り、北家の代々の習わしで神前式の式を終え、私達はようやく新居――と言っても北家に代々受け継がれる日本家屋だが――に落ち着いて住めるようになったのである。番の布団に座ったまま、信介は射抜くような瞳で私を捉えた。

「それ、ほんまに思っとるん?」
「思ってます」
「単純に子供が欲しい、親戚から何か言われるんちゃうかって焦った、俺と生でヤりたい、どれや」

信介の眼力と生々しい言葉に威圧されながらも私は最初の選択肢を選んだ。信介は呆れたように息を吐き、「あのな」と口を開いた。

「結婚する前にも俺と結婚するからには覚悟してほしい言うたけど――そら俺んちは古風な家やし、相続するもんもなんぼかある。でも俺らは俺の家継いでいくために結婚したんとちゃうで。お前は俺と一緒になりたくて、結婚したんやろ」

信介の言う通りで、私は目を伏せ新調した羽毛布団のカバーを見ていた。信介が子供が欲しいと言った理由を否定する、それは信介が提案した選択肢の一つである親戚を気にしているのだろうと言われているのに等しかった。

信介の家は地元でも土地持ちの家だ。相続のため、女姉妹しか生まれなかった代は婿養子を迎えたこともあったという。家を継ぐ信介が結婚するとなれば期待されるのは当然で、私は何度信介の親戚から無垢な興味を向けられたかわからない。とにかくこの家での私の役目は、子供を産むことだと思っていた。

「名前は産む機械やないし、俺は種馬ちゃうねんで」
「はい……」

信介の口調は信介らしい引き締まったものだったが、不思議と優しさに満ちていた。信介は人を叱ることが多いが、必ずしも信介自身が怒っているとは限らない。だからたまに、こういうこともある。

「まあ、俺を種馬扱いして搾精する名前もそれはそれで見たいけどな」
「さくっ……!?」
「ええやん、積極的な嫁さん。俺が馬になるから上に乗ってくれや」

こうなった信介は楽しんでいるに違いない。根が真面目な信介はちょっと人と冗談のセンスがずれていて、判別しづらいこともあるのだけど、今日はしようというお誘いのはずだ。私達は何も身に着けず触れ合うことはまだできないけれど、今日ばかりはそのコンマ数ミリを愛だと思うことにする。