▼ ▲ ▼

 雨の中、交代の人員を待っていた。私達の任務は既に終わったとはいえ、降谷さんと二人でいるのは緊張するものである。私がこの間降谷さんに好きなどと言ったから、余計。

 降谷さんの横顔を見る。降谷さんは相変わらず何を考えているのかわからない。恐らく、その中に私のことはないのだろう。諦めて自分の体に腕を伸ばした時、不意に後ろから抱き止められた。主張の弱い、けれども清潔感のあるいい香りが漂ってくる。誰かは聞かなくてもわかる。降谷さんだ。

「降谷さ……」

 彼の名前を呼ぼうとして私の言葉は途切れた。降谷さんもまた、全ては言わないようだった。

「君が僕のことを好きだと言ったんだろう」

 その言葉は上司と部下という関係でこういった行為に及んでいる全責任を、私になすりつけているようである。私が知りたいのは何故抱きしめるのかではなく、何故好きだと言われたらできてしまうのかだった。降谷さんは目的のためなら手段は選ばない人だが、今はバーボンではないのだ。降谷さんが私と恋人のような行為をすることに、嫌ではないように思えてしまう。いや、降谷さんは実際にそうではあっても言えないのだ。彼は潜入捜査中で、私達は上司と部下である。だから降谷さんは、私のせいだと仄めかしたのだろう。実際に私達のことが明るみになったら、責任を負わされるのは降谷さんなのかもしれないけれど。

 正しく結ばれない私は降谷さんを抱きしめ返すことができなかった。私が降谷さんに一方的な想いを寄せていて、降谷さんはそれに一時的に振り向いただけ。その枠を超えてはいけないのだ。雨は世間から私達を守ってくれるようだった。二人の肌の触れているところがじんわりと熱い。息すらできないまま、時間だけが過ぎて行く。