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 降谷が私を守るような行動をした。それは同期とはいえ、抗いきれない男女の力の差があるからだということはわかっている。しかし、からかってやらないと素直に気遣いを受け取れないのが私の性なのだ。

「降谷って私のこと好きなんじゃないの?」
 まるで女子中学生のように降谷の顔を覗き込むと、降谷は先程作った傷を確かめながら言った。
「好きだが?」

 そのあまりの堂々とした態度に私は何も言えなくなってしまう。一人照れている私が馬鹿みたいだ。というか、何故言われた方の私が恥ずかしがっているのだろう。

「人を好きになる行為は恥ずかしいものじゃないだろう。君だって親御さんの恋愛の末に生まれたはずだ」
「ご、ごめん……」

 降谷の正論は、思春期や男女といった要素でいなせるものではない。思わず謝ると、鋭い視線が飛んできた。

「それは僕の告白への返事か?」
「違うけど……」

 果たして先程の発言は告白だったのだろうか。なんとなく、降谷は形式を大事にしそうだから違う気がする。しかし好きな女のためなら手段を選ばない男だと言われたらそうである気もする。この場合、降谷の好きな女にあたるのが私であるということが大問題なのだけど。

「ならいい。今日から君は僕の彼女だ」
「え!?」

 顔を上げると、得意げな表情を浮かべた降谷と目が合った。騙された。降谷は最初から優等生ぶるつもりなどなかったのだ。私が圧倒されるように正論を並べて、私の意思を問わず付き合うように仕向けた。私は降谷の告白をオーケーするなどという照れくさい行為はしたくなかったので、これでよかったのかもしれない。私のそういった性格まで読んでいるのなら、流石降谷といったところだろう。私はこの男に、嘆息するほかなかった。