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「悪かったな」

 付き合おう、という話をした後、佐久早は唐突に謝った。今の話の中で何の引け目があったのだろうか。悪い予感がして私は佐久早を見上げる。佐久早は冷静な、しかし決まりが悪そうな顔をしていた。

「もっと前から好きだって気付いてれば、お前を待たせることもなかったのに」

 ああそういうことかと、私は腑に落ちる。私達が付き合うきっかけは、私が好きだと言ったことだった。だが佐久早は付き合いを承諾することも断ることもなかった。「お前を嫌いじゃないけど、付き合うとかは思えない」今考えれば、それは佐久早の中に「付き合う」という選択肢がなかったからなのだろう。フラれたものだと思っていれば、「付き合うとかはわからないけど、付き合うならお前しかいないと思う」に変わり、私は待ちぼうけを食らった。本命の人に可能性を示されては、次の恋へも進めない。私が待っていることも気にせず、佐久早はマイペースにことを進めた。そして漸く今日、佐久早は自分の好きだという気持ちに気付いたのだ。

「佐久早が恋愛に鈍感なのは知ってるからいいよ」

 私の言い方は少しお姉さんぶっていたのだろう。佐久早は嫌味ったらしく目を細めた。

「お前の方から好きになってきたくせによく言うな」

 佐久早としては、私の方が先に好きになったということで優位に立ったつもりなのだろう。だが恋愛は勝負ではない。

「私が佐久早を好きになったことは別に弱みじゃないもん!」

 私が言うと、佐久早は何とも言い難い表情を浮かべた。そのまま手を伸ばして乱暴に頭を撫でると去って行ってしまった。今のは何だったのだろうか。恋人というより、弟や妹にする仕草のようだけど。

 好きになって数ヶ月、まだ佐久早のことがわからない。