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「悪かった」

 私の試合が終わった後、牛島君は選手用通路に現れて言った。牛島君が私の試合を観に来ているのだという驚きさえ今はどうでもよかった。私は口を噤んだまま、彼に背を向け続ける。

「俺がお前を好きにならなければ、お前は失敗したりしなかっただろう」

 牛島君が言っているのは、私が最後の試合前牛島君を好きになったことだろう。本当ならば部活に集中しなければいけなかった。だが、私は牛島君を好きになってしまった。本人に気持ちを悟られるのも恥ずかしいし、こうして謝られるのも情けなかった。

「私が牛島君を好きになったのが間違いだなんて言わないでよ!」

 牛島君にあたるように、私は大声を出す。初めて私が牛島君に対し優位に立てた瞬間かもしれなかった。

「しかし俺のせいで――」
「私は牛島君の気持ちのおかげで強くなれたの!」

 まだ何か言いたげな牛島君の言葉を遮る。勝手に私が好きになっただけで、牛島君は何も悪くないのだ。なのに謝られたら、私は余計やるせなくなってしまう。

「好きだよ……」

 順序はおかしいけれど、私は縋るように呟いた。今更であることはわかっている。牛島君は何も言わずに沈黙を守っていた。今何の返事をしても、私を困らせるだけだとわかっているのだろう。丁寧な気遣いだ。そしてその慮るような気持ちが、時に鬱陶しく感じる。

「学校でまた話そう」

 足音が遠ざかる。好きな人に気持ちを知られて、気まで使わせて、馬鹿みたいだ。痛いくらいの優しさが、今の私には沁みた。