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「佐久早好き!」

 もはや挨拶か語尾と化したような私の言葉を、佐久早は辟易した表情で受け止めた。

「簡単に好きとか言うなよ」

 そう言う佐久早は私のことを誤解しているのではないだろうか。私とて誰にでも言っているわけではない。佐久早が大好きだからこそ、毎日好きだと伝えているのだ。

「言ってないよ?」

 私は佐久早を見上げる。佐久早は苦虫を噛み潰したかのような表情で私のことを見つめ返した。

「そうやって俺の気持ちを弄んで楽しいか」

 私は暫く意味がわからなかった。私が好きだと言うことが、どうして佐久早を弄ぶことになるのだろう。佐久早はいつものように、無視していればそれでいいのに。

「佐久早、別にどうでもいいみたいな顔してたのに私が好きって言ったら揺さぶられるの?」
「お前……!」

 私は単純な疑問として口に出した。しかし結果的に、佐久早を追い詰めるような形になってしまったのだろう。佐久早は言い返す言葉がないようだった。クールを気取っていて、佐久早も結構年頃の男の子だったということである。どうでもいい異性に告白されて、意識してしまうのだから。

「なら私、佐久早が慣れるまで好きって言う!」

 改善案とばかりに私が言うと、佐久早は疲れたような表情で項垂れた。

「慣れるわけねぇだろ……」

 それは佐久早の恋愛経験の少なさゆえなのか、はたまた私と佐久早の関係性のせいなのかはわからない。だが澄まし顔をしていた佐久早が実は動揺していたと知るのは結構楽しいものである。好きな人を困らせたい、という初めての感情を前に、私は心を躍らせていた。