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 五条が出会い頭に好きだなどと言ってくるのはもはや日常と化してしまった。大抵は私が怒ってみせたら素直に引き下がるのだが、この日は往生際が悪かった。

「じゃあさ、逆に名前は何て言ったら信じてくれるの?」

 私の口が閉じる。まさか五条が、本気で言っているなど思っていなかったのだ。今も五条が私に対して本気であると信じているわけではないが、私に好きだと言うのは完全にからかい目的だと思っていた。

「僕の好きは信用ならないんでしょ? じゃあ愛してるって言っていい?」
「それはダメ!」

 私はすぐさま反論する。好きだと言われるのはいいが――いやよくはないのだが――愛してるは一線を超えてしまっている。今は微笑ましく見守ってくれている周りの人達だって、愛しているなど言い出したらどうしたものかと思うだろう。そもそも、五条は私を愛しているのか。

「なら薔薇の花束出すのは?」
「ダメに決まってるじゃん!」

 まだ薔薇の花束の方がマシであるが、それにしても処理に困る。私は家まで薔薇を持っていかなければならない上に、五条のことだからそれが会うたび続くのだろう。とてもではないが受け止めきれない。

「じゃあ何がいいの? 僕はどうやって名前に気持ちを伝えるの?」

 段々、五条に対し後ろめたさを感じてきた。五条はふざけてやっているのだと思っていたが、そうではないのではないかと思うようになったのだ。考えてみれば、五条が他の女性に同じようにしているところは見たことがない。もしかしたら五条は、恋愛に不器用なだけなのではないだろうか。

「好きって言うとか、普通に……」

 私が口ごもると、五条は待ってましたと言わんばかりの表情で親指を立てた。

「了解!」

 その仕草に、騙されたような気持ちになる。五条は初めからこれが狙いだったのではないか。後日、私はまたいつも通りに好きだと告げられたのだった。