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 金曜夜七時の飲み会で既に酩酊している名前を見て、アキは思わず絶句した。何故開始時間に出来上がっているのかとか、今日の仕事は何をやっていたのかとかそういうことではない。彼女、苗字名前は今週バディを亡くしたばかりなのだ。常に糊の効いたシャツを身に着けていた彼は、新人として公安退魔特異四課に配属され一年間名前のバディを務めた。名前と彼はバディとしてとても剃りが合う様子だったし、実際二人は強かった。彼の死に名前が少なからず影響を受けていると、アキは思っていたのだ。今日はとても飲む気分ではないだろうと、今晩は一人家で寝ているだろう先輩を思って胸を痛めたものだ。だが実際はどうだろう。名前は誰よりも早く飲み、楽しそうに酔っ払っている。アキは呆れた気持ちで座敷に上がり、名前の隣に並んだ。

「早かったですね」
「うん? ああ」

 既に返事も曖昧だ。一応バディを亡くした悲しみを酒で誤魔化しているという可能性もなくはない。最低限失礼にならないような言葉を選び、しかし内心は隠せないままにアキは話しかけたのだった。

「やっぱり飲むのは楽しいや。明日は映画にも行くし、楽しい」

 やはり名前はバディが死んだことなどまるで意に介していない。平然と飲み会と、週末の映画を楽しみにしているのだ。今の名前の頭に彼の存在はあるのだろうか。アキは遂に言葉を選ばなくなった。

「なんか、軽いですね。バディが死んだのに」
「う〜ん? 私は軽いからなぁ」

 あはは、と名前は声を出して笑う。名前が彼と組む前のバディは思い出せないが、その時もきっとこんな調子だったに違いない。名前はたとえデンジが死んでも、マキマが死んでも、涙一つ零さず週末の映画を楽しみにしているのだろう。

「俺の時には泣いてくださいよ」

 自分でも何故このようなことを口走ったのかは分からなかった。ただ自分が死んでも名前が平然と酒を飲んでいるのは気に食わないと思った。

「え〜? それってどういうこと? アキ君が私のバディになるの?」
「いえ、バディじゃなくても、俺が死んだら泣いてください」
「難しいなぁ……」

 名前は日本酒の瓶を握ったまま黙り込む。一年組んだバディが死んでも泣かない人間なのだ。バディでもない、ただの後輩のアキが死んだだけで泣くというのは今の名前を見ていれば考えられない。ならばもっと親密な仲になる必要があるのだが、それは言葉にするとどういう仲なのかは今は考えないでおく。

「なんか、死ぬのを前提に生きるのって悲しいね」

 瓶の中の日本酒を見ながら、名前が少女のような声色で呟いた。その言葉に、アキは知らぬ間に自分の寿命を名前に話したのではないかとひやりとさせられた。幸運なことに、死を近い未来として捉えるアキの言葉は一般的なデビルハンターの価値観と擦り合わさったらしい。アキに寿命があっても、なくても、思うことは変わらない。

「生き物はみんなそうじゃないですか」

 アキは目の前にあったビールを一口飲んだ。舌の上で弾けるような感覚がした。