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 告白というのは必ずしも劇的なシチュエーションで行われるわけではない。私は佐久早と二人で話しているのをいいことに、教室の片隅で告白した。

「佐久早が好き」

 ムードも何もないが、一応告白だということは伝わったらしい。佐久早は目を伏せると、鋭い目つきで私を見下ろした。

「その『好き』っていうのはどの程度なんだよ」

 慎重な佐久早のことだから、私が本気かどうか試しているのだろう。からかいに巻き込まれたくない、など佐久早の考えそうなことだ。

「佐久早がいると学校が楽しい! って思う」

 私が言うと、佐久早は拍子抜けしたような声を出した。

「は? その程度で好きって言うもんかよ。じゃあ俺はお前が好きだ」

 佐久早の中には「好き」の定義がなかったのだろうか。いずれにせよ、私が甘く見られているのは間違いない。一応佐久早に告白を返してもらったことになるのだが、素直に喜べないのは何故だろう。

「私の気持ち馬鹿にしてる? 『じゃあ』って何よ」

 私の質問に、佐久早は至って真面目に答えた。

「俺はお前が幸せだといいと思いながら生きてる」

 それは高校生の恋愛とは少しかけ離れている感情だった。恋人の幸せを願うことはあるかもしれないが、ただの好きな人、それも片思いの段階でそこまで立派な気持ちを抱えることはあまりないだろう。

「私より好きじゃん……佐久早おも」
「軽いよりはいいだろ」

 私の悪態にも佐久早はぶれない様子である。それどころか、勝ち誇ったような表情で私を見下ろした。

「で、その重い男に好かれた気分はどうだ」

 素直に嬉しい、と言えないのは、マウントをとられたように感じるからだろうか。どちらが好きかで争うなどカップルのようだ、とは言わないことにする。