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 今日は侑の部活がオフで、放課後の教室に残ってデートをした。デートと言ってもただ駄弁っているだけなのだが、私達は確実に恋仲なのである。「飯でも食おか」侑が前の席の椅子から腰を上げる。するとその瞬間、小さな袋が侑のポケットから転がり落ちた。

「これは?」

 侑は時が止まったかのように動けないでいた。代わりに私が拾い、それを掲げてみせる。小さな正方形の袋に入った、明らかに避妊具と思われるそれ。

「名前ちゃんよう見とるなぁ〜」

 侑は弁明することを避け、誤魔化すつもりのようだった。私は侑を責めるかのようにじっと見る。今日使う気なのだろうか。付き合っているので何らおかしくはないのだけれど、私達の間にそういう話は出ていない。それとも、他の人と使うつもりか。

「格好つけたかっただけなんや! 名前ちゃんに無理強いして使うつもりあらへん!」

 侑は観念したように話し出した。確かに、男子が格好つけとして避妊具を持っている話はよく聞く。侑の様子からしても、私に無理強いするつもりはないというのは信憑性があった。

「じゃあファッションなんやな? 実用やあらへんな?」
「まあ、実用したこともあるけど……」

 侑は視線を逸らす。この調子では、侑は私と付き合う前からいつも避妊具を持ち歩いていたのだろう。そして女の子といい感じになったら使用する。いかにも侑らしい行動だ。侑は弁明するように両手を前に出した。

「名前ちゃんが今までの女とは違う行き遅れ処女やってことはわかっとんねん! ちゃんと名前ちゃんに合わせるから!」

 その言葉からは、手の早い侑が私を大事にしてくれる様子が伝わってくる。だから避妊具を見られたことに焦っているのだろう。それにしても、だ。

「一言多いねん!」

 私は言うと、避妊具を持ったまま教室を出た。ゴミ箱に捨ててやろうかとも思ったが、どうしてかそういう気にはなれなかった。