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佐久早聖臣とは昔から有名な男だったらしいが、大学に進学したことでその知名度は跳ね上がった。プロにも負けじと活躍する佐久早は学内だけではなく世間から注目されるようになったのである。佐久早のチームメイトなどは、SNSで数多くのフォロワーを獲得していた。
「佐久早はSNSしないの?」
私は隣の佐久早を見る。佐久早とはそれなりに仲が良いと自負している。佐久早がSNSを始めることがあったら私をフォローしてくれるか、そうでなくても教えてくれることだろう。佐久早がSNSをやっていないという私の予想は当たっているようだった。
「SNSはやらない。わざわざ私生活を他人に切り売りする意味がわからない」
私はSNSによる人間関係のいざこざなどを理由だと思っていたのだが、実はSNSの仕組みそのものが苦手らしい。そういった所は佐久早らしいと言えるだろう。だが、公開アカウントでなくても身内用くらい作ってもいいのではないだろうか。
「知り合い同士でもさ、話しかけに行かなくても今日何してたんだってわかるのは結構いいものだよ?」
ダイレクトメッセージで、今日は何をしたと送りつけるのには抵抗がある。しかしSNSなら誰に向けてでもなく発信できる。逆も然りだ。私はSNSのそういう所を気に入っている。
「じゃあ俺が今日あったことをお前に毎日ラインする。それでいいか」
「いや、別に私は佐久早の日常を知る必要がないっていうか……」
何故解決策がそれなのだろうか。別に私は佐久早の日常を知りたかったわけではない。友達と仲を深めるために使えばいいと思ったのだ。
「じゃあ日常なんて発信する意味ないってなるだろ。俺にSNSを勧めたからには責任持ってラインしろ」
そう言う佐久早は何故か得意げだ。一対一で報告したらもはやSNSではないのだが、練習か何かと思っているのかもしれない。佐久早は、厳しい目つきで言葉を加えた。
「あとお前の近況も毎日報告しろ」
もはや佐久早をSNSに招待した方が絶対に早いと思うのだけど、このアナログ人間に付き合うしかないらしい。私は諦めて頷いた。
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