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 マッチングアプリというものを使って、初めて男の人と会った。デートは円滑に進み、彼はとても誠実な人であるように思えた。それでも疑心が拭えないのは私達がオンラインで出会った関係だからだろうか。彼――赤葦さんに知らず知らずに伝わってしまっていたのだろう、赤葦さんはコーヒーを飲んで顔を上げた。

「サクラやヤリモクを疑いますか? 俺が真剣である証拠に、今この瞬間に籍を入れてもいいですよ」

 先程まで大人びた人だと思っていたのに、いきなり何を言い出すのだろう。いくらマッチングアプリでも、会ったその日に籍を入れる人など聞いたことがない。

「いきなり結婚とかないから! ていうか会ったばかりの人をそんなに好きになることってないでしょ!」

 自然と声が大きくなる。赤葦さんは口元だけで笑うと、コーヒーカップをテーブルに置いた。

「俺、自分で結構器用な方だと思うんです」

 何の話が始まるのだろうか。私は疑心に満ちた表情になる。赤葦さんは気にした様子もなく、つらつらと語り始めた。

「あなたのことを好きになろうと思えば多分本気でなれるし、あなたに俺を好きにさせることもできる。最初に潔白を証明しておいた方が、いいかと思って」

 要するに赤葦さんは、今この場で入籍したとしても最終的に結婚してもいいと思えるほど好きになれる自信があるということだ。

「だとしてもまずはお付き合いから……」

 私がこぼすと、赤葦さんは安心しような笑みを浮かべた。

「あ、やっと前向きになってくれた」

 まさかこの会話すら誘導だったのだろうか。やはり赤葦さんは侮れない。警戒心は未だに解けないのに、何故か赤葦さんをよく思う自分がいた。