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※死ネタ

「オレがもしタイムリープしてるって言ったらどうする?」

 そう名前に語りかけたのは、興味本位での質問だった。恐らくその影には、タイムリープをしていると教えてくれた後輩の存在があるのだろう。ただの与太話と受け取ったらしい名前は、戸惑いつつも言葉を選んだ。

「え? 二回目の人生でも私を選んでくれたことが嬉しい……かな」
「はは、確かに。オレが好きなのは名前だけだからな」

 多分今はいい雰囲気というやつだけど、キスはしない。この空気を陳腐なものにしたくなかった。仮にタイムリープなんてものがあるとして、オレは名前を何年先も好きでいられるのだろうか。名前のことは好きだけれど、所詮中学生の恋愛だ。そう思うとタイムリープをしているという後輩の背中が大きく見えた。多分、オレに将来別の女ができても、中学生時代に戻ったら名前と一緒にいたいと思う。これも全て、中坊の予想にすぎないのだけど。

 果たして、それは正しかったのだろうか。薄暗いマンションの一室で、オレは女の死体を前に佇んでいた。手にしているナイフからは、血が滴っている。

「オレが好きなのは名前だけだ」

 女は名前だった。何の因果か、オレは名前を自分の手で殺したのだった。オレが一番に名前のことを、愛しているから。大人になっても名前のことを好きでいるんだぞと中学生の頃の自分に語りかける。それと同時に、名前を殺さなくてはならない状況になってしまったことに失望させてしまいそうだと思う。

 かつての後輩のように、タイムリープはできない。タイムリープが出来たとして、何度やり直そうが名前は危険な状況に置かれるのではないか。オレのかつての恋人で、今も執着している人だから。他の奴らに殺されるくらいならば殺す、という考えは変わらない。多分オレは、何度生まれ変わっても名前を手にかけるのだ。名前を愛してしまうのは、仕方ないことなのだから。

 ナイフが手をすり抜ける。中学生時代に戻ったら、時なんて進まず、ずっとあの頃のままでいられたらいいのに。願っても叶わない。血の匂いだけが、オレの鼻を刺激し続けていた。