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「何でお前は好きとか言うくせに付き合って欲しいとは言わないんだよ」

 とは、いくら私が好きだと言っても微塵もなびかない男の言葉である。少しくらい私に気があるならいいが、まるで興味がないくせに愛だけ求められても困る。

「だって言っても佐久早付き合ってくれないでしょ?」

 カウンターのように私が言い返すと、案の定佐久早は困ったように顔を逸らした。

「……それは、その時考える」

 何故自分は応えられないのに私の気持ちを求めるのだろうか。佐久早のそういった態度に、私は少なからず腹を立てていたのだ。佐久早は反論するように唇を尖らせた。

「そもそも顔合わせるごとに言われて本気だと思えるわけねぇだろ。言うならもっとちゃんとした所呼び出して真剣に言え」

 その言いぶりではまるで佐久早が私に告白されたがっているようである。佐久早は私が面倒ではなかったのか。

「佐久早、リクエスト?」

 からかうつもりで覗き込むと、佐久早は照れを隠すようにそっぽを向いた。

「何とでも受け取れよ」

 この投げやりさが愛おしい。遂に隠すこともしなくなった佐久早の好意は、今私の元に晒されている。佐久早に好きだと言われたわけではないが、好きだと言われたいというのはもはや好意だと言って差し支えないだろう。この妙にスローペースな男を、どこまで巻き込めるか。それが私の腕の見せ所だ。