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「僕は酒で一夜の過ちなんてしない」とは、同期の降谷の言葉である。何とも生真面目な彼らしいと思う。事実、降谷は常にトップの成績を残している。

 何故この話を思い出しているかというと、先日飲み会の後に降谷と一線を超えてしまったからだ。同期での飲み会だったため、気が緩んで私が飲み過ぎた。それを介抱すると降谷が申し出たところまでは覚えているのだが、気付いたらホテルのベッドにいた。一夜の過ちをしないと公言した降谷を突き動かしたのは性欲なのか。そもそも、あれは普通の女性に対してという意味なのかもしれない。

「降谷が酔って私を抱いたのは、どうでもいいからなのかなって思ってた」

 よそよそしくしていると、降谷は私を呼び出した。密室に一対一。これ以上ないシチュエーションだが、私の心は躍らない。私が現在の心境を吐露すると、降谷は凄い剣幕で叫んだ。

「そんなわけないだろう!」
「え? じゃあ何なの」

 降谷は困った様子である。真面目な降谷のことだから、一瞬たかが外れたのを見られたのに困っているのだろうか。降谷も案外人間らしい所があったものだ。降谷は拳を握り、声を震わせる。

「それは……順番なんてどうでもよくなるくらい、僕がお前を好きだってことだ」

 予想だにしない展開に私は目を瞬いた。降谷は私がどうでもいいからではなく、好きだから一夜の過ちに及んだのだ。そのようなことがあるものか、と思って降谷は目的のためなら手段を選ばないことを思い出した。

「なら先に言ってよ!」
「うるさい! 僕だってイレギュラーの前には緊張するんだ!」

 僕だって、の言葉に降谷の自分への自信が伺える。それほど自信家の降谷が今順番も滅茶苦茶になるほど溺れているのだと思うと感じるものがある。さて、私は降谷をどうしてやろうか。私はすっかり支配者になった気でいた。