▼ ▲ ▼

 それは私が佐久早に告白された時のことである。

「私も好き」

 私は照れを抑えつつ、嬉しさを隠せずに言った。佐久早は喜んで頷き、私達は付き合うものだと思っていた。

「それは本当に好きなのか? 俺に好きだと言われて一時的に舞い上がってるだけじゃないのか」

 目の前の男はとても恋愛の局面だとは思えない表情で、私を理詰めにする。その様子はまるで店員のミスを責める客のようだ。何故か今、好きだと言った私は責められているのである。というか、自分に好きだと言われて舞い上がっているに違いないと口にできる佐久早もなかなかの肝の持ち主だ。

「そんなことないよ」

 どうしていいかわからず、私はとりあえず否定する。しかし言葉だけで佐久早が納得するはずもなかった。

「なら絶対に俺をフらないと誓え。付き合うからには責任を持て」

 佐久早の言葉を聞いて、私はまるでペットを飼う時のようだと思う。私はペットを飼いたいと言う子供、佐久早はそれを止めるお母さん。いや、佐久早は飼われるペット自身だろうか。とてもそんな可愛らしい瞳はしていないのだけど、捨てられるのではないかと怯える姿は少し子犬と被るかもしれない。私は絶対に佐久早を捨てない、と約束しようとしたところで一つのことに気付いた。

「じゃあ佐久早から私をフるってこと……?」
「それはあり得ないな」

 佐久早は頷いている。つまり、私がフらないと約束したら永遠に付き合い続けるしかないのだ。高校生というのは、あまりにも若い。どれだけ好きでも、結婚や永遠を約束できる年ではなかった。せいぜい一年付き合えたらそれでいい、と思っていたのだ。

「まさか結婚するとはね」

 左手を電灯にかざす。佐久早から貰ったシルバーが、白く輝いている。

「いやか?」

 今更なことを佐久早が言うので、私は「まさか」と言ってベッドに横になった。佐久早は初めてした時の固さなど忘れたような動作で隣に寝転ぶ。多分、私が高校時代のことを思い出したのは明日籍を入れに行くからだろう。夜が明けたら、私達はまた一つ記念日を作る。