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 気付けばベッドの上にいた。相手は同期の降谷であるが、この夜のことを水に流すくらいはできる。問題は降谷の方だ。酔いが抜けたのか、真剣な表情で降谷は座り込んでいる。

「僕は好きな人としかセックスしたくないんだ」

 やはり降谷はショックを受けているようだった。酔った勢いで致すなど降谷らしくない。もしかして初めてだったのだろうか。それにしては随分手慣れているように感じたけれど。

 降谷は少し黙り込んだ後、決意したように顔を上げた。

「だから君のことを全力で好きになる」

 思ってもみない一言に私は声が出そうになった。純粋と言えば聞こえはいいが、これはもう執着に近い。降谷ほどモテる男が、このような価値観で大丈夫なのだろうか。

「めんどくさ! ワンナイトで捨ててよ!」

 私はおよそ女子とは思えない台詞を吐く。降谷は真剣な表情を作った。

「それは君に失礼だろう。今から好きになれば問題ない」
「私はそんなつもりで寝たんじゃないけど……」

 私も酔っていたが、一晩一緒に過ごすだけで、決して今後の付き合いなど想定していなかったのである。

「君はもっと自分を大事にするべきだ」

 降谷は説教するかのような調子だった。なら何故昨晩私を抱いたのかと言いたくなる。それも全て酔いのせいなのだろうか。だとしたら、随分悪い酔い方である。私は諦めて降谷に身を委ねた。