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「好きです」

 人気のない体育館裏に呼び出し、私は長年温めていた想いを当人に告げた。地面ばかり見ていて佐久早君の表情は分からなかったけど、少なくとも動揺しているという風ではないようだった。たっぷり十秒が経ったかという頃、漸く佐久早君は口を開いた。

「だから何」

 だから、何。佐久早君の声で聴くと随分冷たい響きを持つその言葉は、私の体の中を駆け巡った。歓喜や拒絶をされることがあっても、まるで告白そのものに興味がないような反応をされるとは思っていなかったのだ。思わず佐久早君の顔を見てから、彼は単なる嫌味で言ったのではなく私の言葉を待っているのだと気付いた。私は必死に頭を巡らせて、「好き」の続きを探す。

「佐久早君にはいつも、幸せでいてほしいです……」

 多分、これが私の答えだ。佐久早君は自分で聞いたくせに私の回答には満足しなかったようで、「はぁ?」と言って眉を吊り上げた。

「俺と付き合いたいとかないの」
「あるけど、私と佐久早君じゃ釣り合わないっていうか……」
「告り逃げされた俺は付き合いもしないままずっとお前のこと意識しなきゃいけないのかよ」
「告り逃げって、」

 責めるような口調に思わず口を開く。しかし、この場で私が交際の申し込みをしなかったらある意味ではおかしいのかもしれない。私に好意を向けられているのを承知の上で日常生活を送れというのも、無理があるだろう。

「俺のことを幸せにするんだろ」

 正確には幸せに「する」ではなく「なってほしい」なのだけど、この際細かいことはいいとしよう。私は佐久早君を見据え、勢いよく頭を下げた。

「まずは友達から、よろしくお願いします!」
「……そうやって、付き合おうって言い出すのは俺に押し付けるのがむかつく」

 佐久早君は私のことを何とも思っていないだろうからこの提案をしたのだけど、駄目だったのだろうか。佐久早君を見上げると、佐久早君は目を細めて私を見ていた。

「で、友達はいつまでやればいいわけ」
「佐久早君が、付き合ってもいいと思えるまで……」
「結局俺から言い出さなきゃいけねえのかよ。じゃあお前適当な所で俺に告れ。俺はオーケーしてやるから」
「佐久早君、それって私のこと好きってこと?」
「そう聞く前に告れ。オーケーしてやるから」

 前から潔癖でこだわりが強いと感じていた佐久早君だったが、恋愛においても佐久早君なりのこだわりがあるようだった。何があっても自分の口から私のことを好きだとは言いたくない様子の佐久早君を見て、可愛いような、寂しいような気持ちになる。もし私が佐久早君の意に反して二度目の告白を延ばしたら、佐久早君はどんな顔をするだろうか。