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 佐久早は私を呼び出すと私に向き直った。その瞳の真剣さに、私のことをよく考えてくれていたのだということがわかる。これからフラれるかもしれないということより、佐久早が私について熟考してくれたことが嬉しかった。

「俺は恋愛をしたことがないし好きとかの感覚もよくわからない。けど、もし誰かと付き合うならお前なんだろうなと思う」

 佐久早の言葉を聞いて数秒、止まっていた頭が動き出す。佐久早は今、私の気持ちを断ったはずだ。だが後半で気があるように感じたのは私の勘違いではないだろう。結局どちらなのかはわからない。だが佐久早は佐久早なりに、答えを出そうとしている。

「それは告白の返事……?」

 私は恐る恐る尋ねた。佐久早は不器用ながら、私をフろうとしているのではないか。私が傷付かないようにフォローもしているだけで。佐久早は顔色一つ変えず口を開いた。

「今すぐどうこうって思ってるわけじゃない」

 恐らく、佐久早にはフる気も付き合う気もなかったのだろう。佐久早の目つきからは、私のことを真剣に考えている様子が窺えた。佐久早は恋愛に不慣れなだけなのだ。

「お前が俺をこうさせたんだ。責任持って教えろよ、俺に恋愛を。その末にどうなってもいい」

 佐久早は何度も告白されたことがあるはずなのに、今まで真面目に向き合うことはなかったのだろうか。佐久早の上から目線の言葉に引っかかる。それよりも、「どうなっても」とはどういうことだろうか。佐久早を見ると、決意したような眼差しが私を見返していた。

「お前を好きになる覚悟はできた」

 結局ここまで考えているのなら私のことを好きなのではないか、と思うが、それを言ってしまっては佐久早の熟考を無駄にしかねない。佐久早に合わせ、待つのが吉だろう。私は子供を見守るような気持ちで頷いた。