▼ ▲ ▼

「それで、北はテストどうやった?」

 私としてはたわいもない雑談のつもりだった。中間テストを終えた初夏、テスト結果を話題に出すのは珍しいことではない。受験組の北なら尚更勉強の結果は気になることだろう。しかし北は私の話に乗ることなく、おかしそうに笑っている。いや、笑いを堪えていると言うべきだろうか。一体私の発言のどこにおかしい要素があったのかわからない。

「言いたいんやろ。言ってもええで」

 北は愉しそうに目を細めた。少し考えて、北が言っているのは私の好意だということに気付く。先程の会話から――あるいは視線や仕草から――私の好意はだだ漏れだったのだ。

「え!? でも受験勉強が……」

 私には言えない理由があった。北は受験組で勉強を頑張っているのを知っている。恋愛ごときで北を揺さぶりたくないのだ。

「昔から好きなの知っとるやん。今更動揺なんかせん」

 北は堂々と言ってのけるが、その内容は衝撃的なものである。

「昔から知ってたん!?」

 薄々バレているのではないかと勘付いてはいたが、それは最近のことだろうと思っていた。どうやら私の片思いは最初から知られていたらしい。

「ええから」

 北に急かされ、私は渋々口を開く。

「……好き」

 言ったところで、受験に集中したい北と付き合えるわけないのだ。そもそも、私をどう思っているかすらもわからない。完全に言わされ損だ。そっぽを向いた時、私の顔を追いかけるようにして北が唇を重ねた。

「返事は受験終わってからな」

 そう言って去ってしまう北を私は呆然と眺める。もう、返事を言ったようなものではないか。甘い痺れに打たれて、私は歩くことを忘れたように突っ立っていた。