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「……透けてる」

 外から教室に入ると、後ろにいた佐久早に声をかけられた。私は思わず距離をとり、体を隠す。佐久早のことを変態だと思っているわけではないが、佐久早を意識してしまう事情があるのだ。佐久早は目を伏せ、机に鞄を置いた。

「俺にそういう目で見られたくないなら一緒にいるのやめろよ」

 佐久早が私を「そういう目」で見てしまうのは仕方ないことなのかもしれない。私は、佐久早に好きだと告白されていた。その告白は一回流し、今は普通に接している。佐久早には、酷なことをしているのかもしれない。

「無理だ。俺はお前のこと女として見ちまう」

 佐久早は独り言のように言った。私がいくら友達のような気安さで接しようと、一度好きになった人を何の下心もなしに見るなど不可能なのだろう。とはいえ、物事に頓着のなさそうな佐久早にしては意外である。

「さ、佐久早そんなに私のこと好きなんだ……」

 思わず呟くと、厳しい視線が飛んでくる。

「は? お前が変な目で見るのやめろって言っただけだろ」

 変な目で見るなとは言っていないのだが、私の行動がそう感じさせてしまったのだろうか。佐久早はあくまでも私のことを好きだと言いたくないようだ。確かに未練がましいと思われるのは嫌かもしれない。だが何故か、私は佐久早に素直に好きだと言ってほしいと思ってしまったのだった。

「じゃあ私は好きに恋愛とかしていいの?」
「ダメに決まってんだろ」

 意地悪な質問を投げかけると、素早く反応が返ってくる。思い通りの答えに満足しながらも、私は自分がずるい女のように思えた。本当にどうでもよく思っていたら透けてるところを見られても動揺しないと言ったら、佐久早はどうするのだろう。