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「最近佐久早の様子がおかしいんだけど」

 私はクレームのごとく古森に言いつけた。古森は佐久早の通訳兼お世話役のようなものである。佐久早が私をしきりに見たり、目が合えばすぐに逸らす理由をなんとなく察してはいるのだけど、私はまだ信じたくなかった。

 古森は「あー、あれね」と言うと、内緒話をするように声を潜める。

「一つ言っておくと、佐久早は告白するよりされたいタイプ」
「私が佐久早のこと好きだって言いたいの!?」

 まるで私に告白を急かすような言葉に、思わず大きな声を出す。この際佐久早の少女めいた趣味などどうでもいい。

「両思いじゃねぇの?」

 古森の声に、私は言葉を詰まらせた。

「ち、ちが……!」

 古森はおかしそうに笑っている。両思いだと認めたら、私は佐久早が私を好きなことも自分が佐久早を好きなことも認めることになってしまう。まだそれほどの勇気はなかった。

「でもさー、あいつ絶対自分から動かないから苗字が言わないと始まんないぜ?」

 そう言われれば、私は答えに窮してしまう。結局、佐久早と付き合いたいという気持ちはあるのだ。もう答えを言っているようなものだけれど。

「私だって佐久早が変に気にかけてくるから気になってるくらいで……」

 私は言い訳のように口にした。少し気になるくらいだから自分から告白するまでもない、と言いたかったのだ。しかし古森は言質を得たと言うように、にたりと笑った。

「それを愛と呼ぶんだぜ」
「まだ愛じゃないし!」

 私が墓穴を掘ったことに古森は言及しなかった。「まだ」愛ではないけれど、私はきっとその境地に達する。両思いをむず痒いと感じたのは初めてだった。