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 放課後の体育館部活は向かう先が同じである。佐久早と私が仲の良い友人であることは周知の事実だし、今更一緒に廊下を歩くだけで冷やかされもしなかった。佐久早と部活へ移動するのは、私にとっては当たり前の行為である。だが佐久早はそうではなかったらしい。

「お前俺が好きなんじゃないだろうな」

 佐久早の言葉に、私は少し考え込んだ。恐らく佐久早がそう言うのは、一緒に廊下を歩くという行為だけが理由ではないのだろう。普段の生活から、私が佐久早を好きである雰囲気が滲み出ている、と。

「好きだって言ったら?」

 私が佐久早を覗き込むと、佐久早は短く告げた。

「断る」

 あまりの清々しさに私は反感を覚える。その仮定が真実であろうがなかろうが、少しは検討してもいいのではなかろうか。たった一言で切り捨てられては、馬鹿にされているように感じるものだ。

「じゃあ好きなのやめる! 付き合えないなら別にいいや」

 私が言うと、佐久早は眉を上げてこちらを見た。私が佐久早を好きだとカミングアウトしたことについては驚いていない様子だった。

「は? お前の俺を好きな気持ちはそんなもんなのかよ。一度好きになったなら最後まで貫き通せ」 
「付き合ってくれないくせに!」

 勝手な言葉に、私は佐久早を睨む。だが佐久早はあくまでふてぶてしい態度で上からものを言った。

「お前の態度によっては変わる。俺は一度好きになったら死ぬまで愛す」

 何故佐久早のご機嫌伺いをしなければいけないのかということは置いておいて、私は佐久早の恋愛観に面食らった。

「重っ! やっぱ佐久早と付き合うの無理」

 佐久早と付き合いでもしたら、死ぬまで離してもらえなくなってしまう。私の言葉に、佐久早はやはり私を見下ろした。

「お前のくせに俺をフるな」

 相変わらず下に見られている。しかし好きになってしまったものは仕方ない。体育館に着き、私達は別方向へと解散した。折角告白まがいのことをしたのに、明日何でもない顔で佐久早が話しかけてきたらむかつく気がする。