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「好き」
私の目の前に立った佐久早君は僅かに表情を変えてみせた。それが喜びなのか、驚きなのかはわからない。どちらにしろ、私の答えは変わらなかった。
「だけど佐久早君は部活に集中したいよね」
佐久早君のことは好きだが、お付き合いを申し込むわけではない。佐久早君は言わずもがな多忙だし、私のせいで部活に身が入らなくなるようなことがあったら申し訳なかった。結果として、私は佐久早君へ気持ちを伝えるだけにしたのだ。体育館裏に呼び出された時点で内容はわかっていただろうに、佐久早君は拗ねたような表情をした。
「それは俺が部活と両立できない男だって言いたいのか?」
違う、と言いかける。いくら両立のできる人でも、負担をかけてしまうこと自体が嫌なのだ。佐久早君は眉を寄せてみせた。
「勝手にできないことにされるとむかつく」
それは私に対する苦情だろう。何とも意地っ張りな佐久早君らしい。それでいてこれからどうするかは言わないのだ。
「付き合うってこと?」
代わりに私が言葉を引き取ると、佐久早君は不意に真顔に戻った。
「他にあるのか」
言うのは簡単だが、お付き合いとは気持ちが伴わなくてはいけないものである。聞いていれば、佐久早君にあるのは反骨精神だけである気がする。相手が誰であれ、似たような反応を返すのではないだろうか。
「佐久早君、私のこと好きなの?」
私が聞いても、佐久早君はちっとも好きだとかそうでないとかを言ってくれなかった。
「重要なのはそこじゃないだろ」
「どう考えても重要だよ!」
佐久早君が意地を張って好きだと言いたくないだけなのか、照れているだけなのかもわからない。それでも付き合えるならいいか、と思っているあたり、私も単純な女なのかもしれない。
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