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 牛島君と二人向かい合っていた。正確には放課後の教室にクラスメイトは数人いたのだけど、私はすっかり二人きりのつもりだった。彼らだって、私達のことを気にかけてはいないだろう。私は手作りのケーキでも差し出すような気持ちで、昨日の分のノートを差し出す。見栄えを気にした丸文字が蛍光灯の下に照らされた。牛島君が公欠した日のノートを見せるのは、いつしか私の役目になっていた。 

 牛島君はノートを受け取ると、そのまま隣の机に置いた。そして私の背中に腕を回し、抱き寄せた。私は一度牛島君の体温や皮膚を味わった後、慌てて体を離した。

「いきなり抱きしめないでよ!」
「俺になら何をされても嬉しいのではないのか」

 まったく自己評価の高い男だと思う。いや、その自己評価は私が育ててしまったのだろう。牛島君が何をしても喜ぶものだから、すっかり私は牛島君にベタ惚れだと認識されている。そしてそれは間違っていない。

「それはそうだけど! 覚悟とかが必要なの!」

 重要なのは、私達は付き合っていないということだ。私の片思いの段階であり、牛島君と触れ合うことに耐性などまるでない。突然抱きしめられたら、私の心臓は容易く止まってしまう。

「それで、覚悟はできたか?」

 牛島君の考えていることは読めない。私は非難するように眉を上げる。

「まだやるの?」
「俺はまだ足りない」

 ならば物欲しそうな顔でもすればいいのに、平気な表情でそれを言うものだから私は牛島君のことがますますわからなくなった。もしかしたら牛島君は結構前から私のことが好きで告白を忘れているだけなのかもしれない。だとしたら今度私から告白でもしてみようか。などと考えながら、私はもう一度牛島君の腕に抱かれた。