▼ ▲ ▼

 友達の友達というものは、遠いようでいて近い存在である。私の連れに教科書を借りるために来た男子生徒――恐らくは去年の彼女のクラスメイトは私と残され、必然的に私のことを新鮮な目で見た。

「苗字さんだっけ」
「あ、はい」

 どうせ友人が教科書を取ってくるまでの間なのだ。特に親しくする気もなかったのだが、彼は交流する気があるようだった。

「モテそうだね」

 そう笑ってみせる彼は、何がしたいのかまるでわからない。お世辞にも私は人目を引く容姿をしていないし、私に気があるわけではないのだろう。それとも、モテる人というのは日常的にこういった会話をするのだろうか。

「モテないよ」

 私が苦笑したところで友人が戻り、彼は礼を言って去って行った。あの会話を知る者は私と彼しかいない。そう思っていたはずが、佐久早の咎めるような目がこちらを向いた。佐久早は出入り口付近の席に座っていたのだ。

「俺お前のことが好きだって言ったよな」

 ぎくり、と私の動きが止まる。これは間違いなく佐久早からのクレームだ。モテないなどと言われて、自分をなかったことにされたと思ったのだろう。

「俺の告白はノーカンか? それとも俺に告白されたことが恥ずかしいのか」
「だからって私モテますなんて言えないよ!」

 私は決して佐久早を甘く見ているわけではないのだ。佐久早に告白されたことは、何なら私の人生におけるビッグイベントである。ただ勝手に名前を出したら佐久早も嫌がるだろうし、マウントをとっているようで嫌だと思ったのだ。

「男相手には言えよ。今の明らかにお前を狙ってたからな」

 佐久早が嫌だったのは、私が狙われることなのだろうか。またしても佐久早が私を好きだということを突きつけられて、足がむず痒くなる。一方的な思いだけでいられないのは明らかだった。