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「私、佐久早君のこと大好きです!」
目を輝かせる女子を佐久早は訝しむように見下ろした。彼女が言っているのは、佐久早のプレーのことだろう。曲がりなりにもエースをやらせてもらっているし、井闥山が人気校であることは理解している。
「なら俺と付き合えるか」
先程までの勢いはどこへ、彼女は口を開けたまま黙り込んでしまった。その表情はまるで吹き出しを割り当てられる前の漫画のキャラクターのようだ。好きだ何だと言ったところで、所詮それはプレイヤーとしてのことに限る。佐久早のような思春期男子に向けて言う言葉ではないのだ。
「ほらな。簡単に大好きとか言うな。俺はキャラクターでもアイドルでもない」
少し可哀想と思わなくはないが、佐久早は説教じみた言葉を述べた。駒のように扱われるのは散々である。佐久早は自らを応援してくれる人を少しずつ失ってしまうかもしれないが、黄色い声を出されたところで煩わしいだけだ。
「付き合えますよ?」
「え?」
佐久早は視線を戻す。するとそこには、佐久早より遥かに成熟したような表情で、彼女がこちらを見据えていた。
「佐久早君となら何でもできます!」
今は恋愛の話をしている。ということは、「何でも」とはキスやセックスのことだろう。例えで出していた恋愛話が急に現実味を帯びてきて、佐久早の顔に血が集まった。
「お前! もうちょっと自分を大事にしろ!」
先程と言っていることが矛盾しているが、恋愛込みの好きだとしてそれを向けられる準備など佐久早にないのである。後輩だか同級生だか知らないこの女子の方が、佐久早よりずっと落ち着いているではないか。勝手に負けた気になって、佐久早は「クソッ」と悪態をついてから体育館へ戻った。
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