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 私には推しのバレー選手がいる。知ったきっかけはともかく、今はほぼ全ての試合を観戦するほどのめり込んでいる彼は、ファンとかそういったことには無頓着だと思っていた。事実、「影山は塩」などとネットで言われている。ところが私の家には、汚い、それでも彼からだとわかる字の、封筒が届いていた。

 何かの間違いではないか。私は夢中で封筒を開ける。中には便箋が一枚。ファンレターを送ったことへの感謝と、応援していることへの感謝。明らかに彼だ。未だになりきりの悪戯ではないかと疑いつつも、私は最後の行まで目を走らせた。そして一文に釘付けになった。

「高校の頃好きだった人に字が似ているので思わず返事を書いてしまいました」

 私の中の何かが弾ける。気付けばファンミーティングの待機列で、私の番になるなり叫んでいた。

「高校の頃好きな人とかファンに言ったらダメなんだよ!」

 彼はきょとんとした様子で目を瞬く。

「何であなたが知ってるんですか」
「ファンレター出したのが私だからだよ!」

 彼はまだ納得がいっていない様子だった。やがて私のことを思い出したのだろうか、混乱が別の混乱に変わっていく。そういえば、正体を知られるのを恐れて一対一のイベントはあまり参加しなかった。

「でも『みかん』って……」
「それペンネームね」

 私の本名が「みかん」でないことくらい、彼はとうに知っている。そして私は彼が私を好きだったということを、狡い方法でしってしまった。過去の気持ちを知られたという恥ずかしさもなく、彼は口を手で覆った。

「やべ、嬉しい」

 その様子は、さながら恋する男子である。

「そんなんやってると期待するからね」

 釘を刺すように私が言うと、「はい」と彼が答えた。その答えはどちらだ。私は荒々しい足音で彼の元を去った。