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「予選突破おめでとう!」

 六月も終わり、季節は夏へと変化していく。佐久早達バレー部は、インターハイの予選を無事突破したところだった。慎重で知られる佐久早が手を抜くとは思えないが、これからが正念場というところだろう。佐久早は私に気付いて足を止め、不躾な視線を浴びせる。

「インターハイが終わるまでお前には会わない」
「え!?」

 私は佐久早を祝っていたはずなのだが、何か怒りを買うような真似をしてしまったのだろうか。よく観察してみれば、佐久早は感情的になっているというより冷静に吟味しているようだった。それほど真剣なことに、私が関わっているのだろうか。

「お前と会ってると気が抜ける」

 要するに佐久早は、インターハイに本気をかけているのだ。インターハイまで気を抜かず、戦いの気分でいたい。そしてそれに私は邪魔だということだ。

「佐久早私なしで平気なの?」

 冗談のつもりで言ったのだが、佐久早には焼くような目線で睨まれてしまった。地雷だったのだろうか。私は「ごめんて」と謝って一歩後ずさる。

「お前と会わなければ勝てそうな気がする」

 まるで私を馬鹿にしたかのような発言に、反抗心が疼く。

「そんなに邪魔だってこと?」
「願掛けの意味だ」

 言葉は否定しているものの、視線は鬱陶しがるように痛々しい。私から何か言われるのを恐れているのだろうか。私だって流石に、佐久早の部活に関することを茶化しはしないけれど。

「とにかく、インターハイが終わるまで会わない」
「インターハイが終わっても夏休みだよ?」

 意地悪をするように私が言うと、佐久早はもどかしいような顔を見せた。

「会えよ、そこは」

 私は佐久早のそういった顔に弱い。結局私はこっそりインターハイを観に行くし、その後佐久早とも会うのだろう。次会う時には、佐久早と私の関係も変わるだろうか。