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 昼休み、体育館裏。あまりにもベタだと思うが、別に佐久早は定番の場所にしたかったわけではなく、ただ単に部活で体育館付近に訪れることが多いだけなのだ。約束の時間の前から、かれこれ十分は待っている。だというのに今来たというような顔をして、佐久早は苗字を迎え入れた。

「呼び出して悪かったな」

 ここまで想定通りである。流石の苗字でも体育館裏に呼び出されたらしおらしくなるだろう。佐久早が告白をして、付き合ってほしいと言って、承諾を得る。帰り道はきっと饒舌に話せないだろうが、その焦ったさもまた恋愛の醍醐味なのだ。

 本題に入ろうと佐久早が息を吸った時、遮るように苗字が叫んだ。

「私も好き!」

 佐久早の中のムードがすっかり壊れる。緊張するシチュエーションだというのに、何だその馬鹿らしい宣言は。自分の告白の成功率が百パーセントになったことも気付かずに、佐久早は眉をしかめた。

「何で『も』なんだよ」
「だって今の告白の流れじゃん」

 何も言い返せない。というか、告白だとわかっているのならもう少しそれらしくしたらどうなのだ。

「わかっても俺の気持ちを決めつけるな」

 苗字相手に、好きだと思われているのはなんだかむかつく――佐久早は自分が告白しようとしていることを棚に上げ、苦情を述べる。しかし苗字には最強のカードがあるのだ。

「でも私のことが好きなんでしょ?」
「そうだよ!」

 否定することのできない問いをかけられ、佐久早は自暴自棄に叫んだ。そんな佐久早がおかしくてか、苗字は笑っている。自分が無様だと言われているように感じて、佐久早はますます苛ついた。返事は、と求めたくなるが、最初に言われたのだった。どこまでも佐久早を乱す、苗字名前という存在がむかつく。