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 雨上がりの教室に陽光が差し込む。梅雨真っ只中の今、私と佐久早は重大な局面にあった。いや、真面目な話をしているのだけど、どうも真剣になれないのだ。それは偏に佐久早と過ごしてきた年月のせいかもしれなかった。佐久早を友達とも異性とも見てきた期間が長いので、いつしか世間話のように恋愛の話ができるようになってしまったのだ。

「佐久早って私のこと好きなの?」

 佐久早も大して動揺したそぶりはなく、視線をこちらに向ける。その様子は少し気怠げだ。

「好きだったらどうするんだよ」

 イエスでもノーでもない。佐久早は私を試しているのだろうか。私は素直になることにした。

「別に付き合ってもいいけど」

 私が言った途端、佐久早は開いていた教科書を閉じる。とうに自習の課題は終わっており、佐久早の元には文字で埋められたプリントだけが残った。

「よし。俺はお前が好きだ」

 佐久早は心なしか得意げである。それもそうだろう。佐久早がフラれる確率は万にもないと今わかったばかりなのだから。

「は!? 今のずるくない!?」
「お前がいいって言ったんだろ」

 佐久早はまるで悪びれる様子がない。告白するにしたって、私の話を聞いてからでは本気の度合いが伝わらないというものだ。

「もう少し危険を犯してよ!」

 と言いつつも、もう二年も友達でいる佐久早に少しでも恋愛感情が芽生えているならそれでいいかとも思う。佐久早が慎重な性格であるのはとうに承知済みである。これが佐久早なりのアイラブユーならば、受け入れたいというものだ。

 不意に視線を外にずらす。今付き合おうと言えばすぐに付き合えてしまう距離感が、なんだかとてもむず痒かった。