▼ ▲ ▼

 留学生も多い井闥山学院では、季節のイベントを大々的に行う。生徒玄関前に置かれた笹の葉もまたその一つである。既に多くの生徒が願いを吊るしており、笹の葉は重そうにしなっている。

 その様子を横目に見ながら、私は願い事を考えた。叶えたいことはいくつかあるものの、星に願うとなるとまた別だ。自分の力で叶えたいもの、神頼みしたいものとさまざまなのである。その中でも無難な願いを一つ選ぶ。

「佐久早と毎日会えますように」

 口に出すと、隣を歩いていた佐久早が反応した。結構可愛らしい願いだと思うのだが、その顔は険しい。

「すぐ会える距離だろうが。織姫と彦星じゃねぇんだぞ」

 私達の家は電車で二十分程度の距離である。確かに会おうと思えば会えるのだが、大事なのは「毎日」という部分なのだ。

「部活だってあるでしょ?」

 多少意地悪になってしまったのは否めない。佐久早と付き合ってからというものの、私は佐久早の部活に理解を示すよう努力してきた。それでも会いたいものは会いたいのである。佐久早は気を悪くした様子も見せず、視線を外にずらした。

「別にお前が会いたいって言えば時間作る。彼女だろ」
「へえ〜」

 どうやら私はいい彼女であろうとしすぎたらしい。わがままの少しでも言えば、佐久早は応えてくれたのだ。どちらかと言うと佐久早の方がわがままなので、私は大人ぶりすぎた。そのわがままな佐久早も、彼女のために時間を割くということはできるらしい。私が願うべきは星にではなく佐久早にだったのだ。意外と近くに神様がいることを知って、私は少し嬉しくなった。