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 井闥山学院の一階フロアには、大きな笹の葉が飾られている。生徒は自由に短冊を吊るせるようになっており、成績向上や部活動での勝利が多く願われている。私も短冊を手に取り、備え付けのボールペンで願いを書き出した。すると、隣で見ていた佐久早が横から口を挟む。

「全校へ向けて俺への呪詛を吊るすな」

 私が書いた内容は、「佐久早に彼女ができませんように」だった。恐らくマイナス面の願いを吊るしているのは、全校を探しても私だけだろう。佐久早は吊るされている短冊を手で弄った。

「俺と付き合えますようにでいいだろ」

 そう言う佐久早はとっくに私の気持ちを知っているのだろう。もはや照れすらない。

「なら佐久早本人に言うよ」
「もう言ってるようなもんだろうが」

 だから付き合う、付き合わないの話もなく、私達の話題はあくまで七夕の短冊のことであった。佐久早は手を止めた後、もどかしそうに視線を横にやる。

「お前も付き合えないんだぞ」

 佐久早に彼女ができませんようにと願うなら、私も彼女になれないといった意味だろう。だが私の勝率は既に決まっているのだ。

「だって付き合えないじゃん」

 あっけらかんと答えると、佐久早は黙り込んでしまった。私は自分の欲に押されるあまり、佐久早の性格を考慮しないことがある。佐久早はシャイで意地っ張りでプライドが高い性格なのだ。

「待って、オーケーなの!?」

 佐久早が自分からオーケーだと言いづらいだろうことを失念していた。私に気持ちを汲み取ってもらえなかった佐久早は「もういい」と歩き出し始めている。遠くの星より近くの佐久早である。私は内容を変えて、佐久早にお願いをすることにした。佐久早と私が付き合えますように。これだとまた佐久早が了承しないといけないので、振り出しだろうか。