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 今日は男子バレー部が体育館を使えない日らしい。というのも、佐久早から聞いた情報だ。席が前後の私達は、こうしてくだらない話をするくらいには仲が良くなれたと思う。佐久早はナイロンのバッグを持って歩き出そうとした。その肌の白さが、やけに目に止まる。

「折角色白なんだから日焼け止め塗りなよ!」

 私は思わず佐久早を引き留めていた。最近の紫外線は強い。外周などしていたら、すぐに焼けてしまうことだろう。

「持ってない」

 佐久早は無頓着な様子である。だがその白さが勿体ないと思うのは、私が去年真っ黒に焼けてしまったからだろうか。

「私の貸すから!」

 佐久早は私の必死な様子を見て口を噤んだ。何故そこまで勧めるのかと思っているのだろう。私は今日何としても佐久早に日焼け止めを塗らせる気である。

「そこまで言うならお前が塗ったらどうなんだ」
「え」

 反論する暇もなく、佐久早が腕を差し出す。つられるように私はクリームを出して、佐久早の肌に広げた。白いクリームが佐久早の肌と混ざって見えなくなっていく。男の子の肌に触れるのは初めてだった。

 そっと佐久早を見る。佐久早はあえてそうしているかのように、じっと口を閉じていた。

「あの、無言でいられると怖いんだけど」

 佐久早なら憎まれ口を叩いたり、茶化してきそうなものだ。佐久早は素直に口を開いた。

「喘いだら俺が変態になるだろ」
「既に変態だから!」

 喘ぐどうのという話ではなく、女子に日焼け止めを塗らせている時点で一線を超えているのだ。佐久早もこの瞬間から性的な何かを感じ取っているのだと思うと、私の中の何かが熱くなる。佐久早は腕で満足したのか、「借りる」と言って日焼け止めを顔に塗り始めた。自分で塗られるなら最初からそうすればいいのに、とは言わなかった。