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 聖臣との同居生活が始まって一ヶ月が経った。お互い努力できる部分は改善し、解決策のない部分には見て見ぬふりをし、なんとか上手くやって行けていると思う。私はコーヒーがドリップされる様子を見ながら、聖臣が起きてくるのを待つ。土曜の朝は一緒にコーヒーを飲むのが決まりだった。

 暫くして聖臣が起きてきたかと思えば、不満そうな顔をしていた。寝起きが悪かったのだろうか。予想していたことだが、聖臣が神経質だということは同居してこれでもかと実感した。コーヒーと簡単な朝食をテーブルに並べ、席に着く。普段ならば心地よい沈黙を楽しむところなのだが、聖臣はぶすくれた顔で口を開いた。

「結婚したからには役目を果たせ」

 聖臣にしては珍しい苦情である。私は結婚する前、聖臣を小姑のようなものだと想像していたが、意外にも聖臣は私のことに口出ししなかった。私の家事に文句を言わないどころか、私がやり残した部分の掃除を受け持つくらいである。その聖臣の言う役目とは。やはり家事が甘いということなのだろうか。

「何? 家事とか?」

 私が言うと、聖臣はコーヒーにも口をつけずまっすぐに私を見た。

「違う。妻なら俺を幸せにしたらどうなんだ」

 言っていることは甘ったれなのに、上から目線であるのがちぐはぐに思える。というか、指示が曖昧でどうしたらいいのか私はいまいち理解できない。

「幸せにするってどうするの」

 素直に問うと、「それでよく妻が務まるな」と睨まれてしまった。聖臣の妻であるからには、聖臣を幸せにする方法を熟知していないといけないらしい。

「いいか、俺達は新婚だ。それで俺は今起きたところだ。よく考えろ」

 聖臣はあくまで答えを教えてくれないらしい。私は暫く考え込んだ後、「おはようのキス?」と答える。聖臣に限って、まさか。しかし目の前の聖臣は否定しなかった。

「わかってるならやったらどうなんだ」

 私は仕方なく席を立ち、聖臣の元へ行ってキスをする。口が離れると、聖臣はご機嫌そうな表情を見せた。

「もういいぞ」

 家事は分担、やり残しても文句は言わないくせに、幸せにする方法については把握していろと言う。何とも変わった亭主関白だ。