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 付き合って五ヶ月。男女のあれやそれも済ませ、二人の仲は至って順調だと思う。懐古していたところで、ふと佐久早は好きになったきっかけを聞いていないことに気が付いた。佐久早の方が先に好きになったのだろうが、佐久早の告白に「私も好き」と答えたのは名前だ。

「お前いつ俺のことを好きになったの?」

 佐久早が尋ねると、名前は照れるでもなく嬉しそうな笑みを浮かべた。

「飲み物なくなった古森君にこれ飲めよってペットボトル差し出してた時! 優しいなって思った」

 褒められるのはやぶさかではない。しかしその発端が、名前へ向けた厚意ではないというのはどうなのだろうか。

「何で古森がきっかけなんだよ、別のあったろ」

 佐久早は他の思い出を促すが、名前にとって佐久早を意識したきっかけは先程の出来事で固定されているようだ。顎に手を当て、天井を見上げる。

「でも一年の時は聖臣と同じクラスじゃないし」
「古森が恋のキューピットとか死んでも嫌だ」

 断言した佐久早をからかうように名前が覗き込む。

「聖臣、意外と夢見がち?」

 そう言う名前は乙女度が足りないのではないか。佐久早が作ったシチュエーションも、いつも無駄にしてしまうのだから。

「うるさい。俺はお前に好かれるために散々努力したから」

 佐久早が睨むと、名前は肩をすくめてみせた。名前に振り向いてもらうために、佐久早が奔走したのは二人の中で共通の事実である。そこまでしていて古森がきっかけだと言われたら反論の一つもしたくなるだろう。名前は佐久早の手をとり、「今は聖臣しか見てないよ」と言った。それで絆されてしまう佐久早もまた、単純なのであった。