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 放課後の教室は人で入り乱れていて、独特の喧騒を生んでいた。部活や委員会があるわけではない。私も帰ろうとその波の中に入ろうとした時、不意に佐久早君が目の前に現れた。現れたというより立ちはだかったという方が相応しいような佇まいで、佐久早君は私を見つめる。

「俺はインターハイがある。告白はあと一ヶ月待ってほしい」

 BGMのように感じていた人々の話し声が大きくなる。私達が沈黙したということだ。佐久早君は、時折突拍子もないことを言う。それも恋愛という、センシティブな話題において。

「何で私に言うの?」

 私が尋ねると、佐久早君は単純明快とばかりに答えた。

「お前告白しそうだろ」

 それについては答えないでおいた。仮に私が佐久早君を好きだとしても、このような場で告白を済ませたくないと思ったのだ。まあ、本人に対して告白をするななどと言ってしまえる佐久早君は気にしないのかもしれないが。私は話を続けた。

「佐久早君を好きな女子全員に言ってるの?」
「いや、どうでもいい奴には言ってない。言われたところで大して動揺しないからな」

 私の質問が佐久早君を好きだと仄めかしていることはどうでもいい。問題は、佐久早君が言う相手を選んでいるということである。佐久早君の言い方では、私に言われたら動揺するようだ。それでは自分の気持ちを告げているも同然なのである。

「じゃあもう気持ち確かめ合っちゃったじゃん! 何で待てとか言いながら告白しに来るの!」

 私は喜ぶのではなく怒った。好きな人と両思いであるということは嬉しいが、行動が矛盾しすぎている、佐久早君は私が怒ることを想定していなかったのか、ムキになったように目をつり上げた。

「告白してない。告白するなと言ってるんだ」
「それが告白なの!」

 このまま話は堂々巡りしそうである。解決するには、佐久早君のインターハイが終わった後私が告白するしかないのだろう。告白にこのような疲労感を覚えたのは初めてだ。佐久早君は私の気持ちも知らず、心外だとでも言わんばかりに唇を突き出していた。