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「家の鍵だ」

 聖臣にキーを差し出された時、私はそれが聖臣だけのものではないことを察した。というのも、聖臣の家の鍵は既に受け取っているのだ。一晩を過ごした翌朝、早く出る用事があった聖臣に「帰りはこれで閉めておいて」と書き置きを残されたのは記憶に新しい。返そうとしたら、「そのまま持ってて」と言われたのだ。あの時のときめきは忘れられない。私は聖臣に伺うような視線を投げた。

「私達の、だよね?」
「ああ。年収が上がったからいい条件でローンが組めた」

 聖臣の言葉を頭の中で反芻する。ローン、つまり賃貸ではなく分譲ということだ。聖臣が勝手に二人の家を契約してくる行動力のある男だということは知っていたが、まさかローンを組んでくるとは思わなかった。お金という側面で、私は外堀を固められているのだ。

「何で賃貸にしなかったの?」
「将来のことを考えたら買った方がコスパいい」

 そう語る聖臣に迷いはない。私達の未来を疑っていないのだろう。勿論私も聖臣との未来に不安があるわけではないが、実際に行動に移せるかとなれば別である。

「ちなみに間取りは?」
「二階建ての四LDK」

 恐らく、聖臣の中では子供の数すら決まっているに違いない。最終的に受け入れてしまうあたり、私も聖臣に甘いのだろう。私は脳内で聖臣の両親への挨拶をシミュレーションした。