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 冷たい風の吹くビルの合間にて、私は困り果てていた。原因は百九十センチ近い巨体で私にもたれかかる男・宮侑だ。侑は誰がどう見ても酔っ払っているのだが、自分一人で帰ると言って聞かないのだ。そう言いながらも既に千鳥足であり、自分の足でタクシー乗り場に辿り着けるかも怪しい。

「だから、私が送って行くって」
「ええんです! それはあかんのです!」

 そう叫んだ拍子にまたバランスを崩したので、私は慌てて侑の体を支えた。私はため息を吐きながら何故こうなってしまったのだろうと考える。きっかけは大阪にいる者同士で集まろうという話だった。

 角名の所属する東日本製紙RAIJINが大阪に来たことで、就職を機に大阪に来た者も含め一時的に大阪にかつてのバレー部の面々が集まっていた。侑と角名の試合の二日後、大阪の中心より少し外れた居酒屋で私達は数年ぶりに顔を合わせる。話題に上がったのは角名や侑の試合だった。私は侑の隣に座らされたために自ずと話の中心になっていたと思う。調子をよくした侑は浴びるように酒を飲み、結果一人で帰れないまでになっている。皆が私と侑を置いて帰ってしまったのは多分、侑が私を好いているからだろう。至近距離で意地を張る大きな子供をもう一度見下ろす。

「私何もせんから。玄関で帰るから、送ってく」
「玄関まで来られたら欲情してしまいます!」

 まるで必死な男の台詞のようだと思いながら言うと、随分正直な言葉が返ってきた。侑が私のことを好きだというのは知っていたが、ここまでオープンにされるとどこか居心地が悪い。そもそも、私は侑とのワンナイトを狙っているわけではないのだから別に何もせずに帰るのだけど、侑はそうは思えないらしい。

「俺と名前さんは酔った勢いなんかで始まったりしないんです! 俺は名前さんとちゃんと段階を踏んでからヤりたい! ヤりたい!!」

 後半、大分素直な欲が出ていなかっただろうか。私は呆れながらこれからどうしようかと考えた。侑は絶対に私が送るのを認めないだろうが、ここまで酔っていれば何が起きたかなんて翌日には忘れているだろう。いっそ私の家に持ち帰ってしまおうか。面白半分のひらめきだったが、その後の侑のことを考えたら面倒くさすぎて脳内で却下した。とはいえ、仮にも体が資本のプロバレー選手を冬空の下放っておくわけにもいかない。もう私と侑は付き合ったことにして、円満に侑を送って行くことにしようか。そんなことを考えるくらいには、この図体だけ大きな酔っ払いに手を焼いていた。