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 私の告白に対する佐久早の返事は保留だった。無理もない。佐久早の様子を見れば、恋愛から距離を置いているのは明らかである。答えがないということが答えなのではないかと思うようになってきた頃、佐久早は私の隣に並んだ。

「いくら考えても埒があかない。それで、告白してきたのが他の奴だったらって考えた」

 放課後の廊下は喧しく、混雑していた。佐久早の行き先が体育館であることはわかっている。だから体育館までの短い道のりで、佐久早の話は終わってしまうのだろう。

「もしお前じゃなかったら、即断る。でもお前なら俺は悩む」

 佐久早は「悩む」という言葉が似合う顔つきをしていた。この数週間、佐久早は私のことだけを考えていたのだろう。それだけで私にとっては、十分すぎるくらい幸せだった。

「だからお前は好きなんだと思う」

 導き出された結論に、私は少しの違和感を持つ。

「なんか強引じゃない? いいの? それで」

 佐久早が私を好きである、というより、消去法で考えているのは明らかだ。こじつけのような考え方で、私と付き合っていいのだろうか。

「強引じゃない。俺をここまで悩ませたんだ。責任をとれ」

 そう言う佐久早はいつもの佐久早を思わせる上から目線で、私は思わず笑ってしまった。中途半端を嫌う佐久早のことだから、付き合ったら徹底的に尽くすのだろう。今は、その姿を楽しみにすることにする。