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 それは二年と三年で進路の話をしていた時のことだった。

「え、白布医学部志望なの? モテちゃうじゃん!」

 受験を半年後に控えているというのに、自分の進路はそっちのけで叫ぶ。いつの間にかその他のメンバーは私達抜きで盛り上がっており、私は完全に白布と二人きりで対話していた。白布は手持ち無沙汰にパックのジュースを手で回した。

「俺がモテるのが嫌なら先輩が付き合ったらどうなんですか」
「そんな魔除けみたいな」

 白布の好意に応えないくせに、白布を自分の所有物のように扱う私に嫌気が差しているのだろう。その件に関しては私も申し訳ないと思っている。

「先輩が付き合ってくれたら向こう六年は彼女作りません」

 白布の気持ちが本気だと示すためには少々やりすぎに思えた。私達が一年で別れたとしたら、白布は五年間彼女がいないことになる。その間私と何かあるわけでもないだろうし、白布には何のメリットもないはずだ。

「何でそこまで制限かけるの?」

 私が聞くと、白布は紙パックを手でぎゅうと潰した。噛み跡のついたストローが情けない音を立てる。

「先輩と六年は付き合い続けるからですよ。頃合いを見て結婚してください」

 何もかもおかしいことだらけだというのに、私は肝心なことに突っ込むのを忘れていた。将来を決められた動揺よりも、あまりにも不機嫌そうにされた結婚の申し出のインパクトの方が大きかったのだ。

「プロポーズその顔で大丈夫?」

 白布は唇を尖らせ、不満そうに俯く。

「どうせ頷いてくれないんだろ」
「そうじゃないかもよ?」

 弾かれたように顔が上がって、まるで小学生の男子が初めてカブトムシを見つけたような表情になる。ああ、この顔が見たかったのだ。私は決めていた期日を、少し早めることにした。