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 牛島君に告白をした。牛島君は神妙な顔つきをした後、ややあって口を開いた。

「返事は待ってもらってもいいだろうか」

 最初から牛島君と付き合えるなど思ってもいなかったのだ。検討してもらえるだけありがたいというところである。それでも少しの期待をしながら私は待った。その一日後、牛島君は私を呼び止めた。

「昨日のことだが、俺もお前が好きだ。付き合いたい」

 教室の片隅で、私は呆然とした。私はおよそ告白の返事を受けるに相応しくない顔をしていた。乙女らしい感情は消え失せ、戸惑いだけがそこにあった。

「早くない? ていうか好きだったの?」

 好きとは一日で芽生える感情ではないはずだ。なら何故昨日は保留するようなことを言ったのだろう。牛島君は平然と答える。

「昨日は仏滅だったからな。今日は大安だ」

 まさか大安や仏滅を告白で気にする人がいるなんて。牛島君が育ちのいい――悪く言えば古臭い――人なのは知っていたが、ここまで徹底しているとは思わなかった。

「そういうの気にするのって結婚とかだけでしょ」

 私が突っ込むと、牛島君は見当違いな答えを返す。

「苗字は入籍は大安がいいと思うか?」
「まあ、なんとなく……」
「わかった」

 流されればこの有様だ。牛島君に任せていたら、一体どうなってしまうのだろう。そう思いつつも、流されてみたいと思わせるだけの背中の広さがあった。