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 大して変わり映えのしない金曜だった。適当に女を誘い、ホテルに連れ込んで、翌朝ベッドで目覚める。すぐに帰ってもいいのだが、ゆっくりと帰り支度をしている時間が好きだった。侑がそうだというのに、女は手早く荷物をまとめる。なんとなくフラれた気がして面白くない。いや、侑も告白したわけではないのだけど。

「初めてにしてはよかったです。それじゃあ」

 侑の中でいくつかの可能性が浮かぶ。その中でも放置できない一つを見つけ、侑は女の肩を掴んだ。

「自分処女なんか!?」

 女は何故か驚いた様子で侑を見返す。

「気付かなかったんですか?」

 まるでこちらが悪いとでも言いたげだ。実際、悪いのは侑である。人の初めてを遊びに消費してしまったのだから。

「酔って記憶なんかないわ! それなりの見た目してんのに何して生きてたん?」
「ずっと女子校で、学費は自分で払ってたのでバイト三昧でした」

 女と深く関わったわけではないが、それなりに真面目そうであるということはわかる。合コンや遊びの誘いを断り、バイトや勉強に充ててきたのだろう。とんだモンスターが生まれたものである。見た目が小慣れているのだからなお恐ろしい。

「とんだトラップや……あかん、重いハジメテ貰ってもうた。付き合うぞ」

 侑は女の肩に手を置いた。女が飛び上がって喜ぶタイプではないことは承知している。実際、女は動揺を隠せないようだった。

「そういう流れでした!?」
「処女抱くからには責任とらなあかんねん」

 侑とてそれなりの良識はある。むしろ、セックスに慣れているからこそセックスに対しての意識が高いのだ。

「私の意志は無視ですか? そもそも宮さんって私のことは」
「好きやない」

 遮るように言うと、女は眉を顰めた。

「なら何で付き合うんですか」
「処女抱いたからや!」

 これ以上は堂々巡りしてしまいそうな気がする。「まずはチューから始めんぞ」と言うと、「昨日したじゃないですか」と言われた。残念ながらその記憶はない。侑の方が純情のようで、少し悔しくなった。