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 高校の頃の後輩である影山君と再会した。影山君は当時とさして変わらず、バレー以外に興味のなさそうな顔をしていた。それでも飲み会の中で私の隣から動かないのは私に興味があるからだろうか。気になっているのは私だけではないかと思うと少し悔しい。追加のお酒を頼もうとした時、唐突に影山君が口を開いた。

「渡したいものがあるので、今度うちに来てくれませんか」
「へ?」

 私は伸ばしかけた手を止める。私達は過去に付き合っていた。二人きり、それも自宅ともなれば、どうしたって男女の空気になってしまう。いや、今もなっているかもしれないのだ。影山君がどうして密室に私を誘うのか、私はまるで読めなかった。

「普通ならカフェとかに行くのはわかってます。でも俺、撮られたら終わりなので」
「ああ……」

 私は忙しなく動き回っている店員をぼんやりと見る。影山君は外で異性と会えないのだ。もう有名人になってしまったから。少し寂しいような、有名人の元恋人で誇らしいような、複雑な気持ちがした。

「苗字さんには迷惑をかけたくないんです」

 その言葉に押され、私は了承したのだった。


 後日、スマートフォンに送られてきた住所に向かう。影山君はロックを外し、部屋で待っていた。渡したいものとは当時私が置き忘れた何かだろうか。私が待てども、一向に影山君がものを出す気配はない。影山君は私の方を振り返って言った。

「俺、芸能人が使う店とかちゃんと知ってます」

 背中に冷たいものが走る。はめられたのだという実感と、影山君がまだ私をそういう目で見ているのだという驚きがあった。

「簡単に男の部屋来ちゃダメですよ」

 そう言う影山君にあの頃の純粋さはなく、私は彼の成長を知った。