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佐久早の試合を観に行った。井闥山学院は奮闘したが、僅差で負けた。観客席から見える佐久早は少し肩を落としているように見えた。次の試合との間に飲み物を買いに行くと、外で涼んでいたらしい佐久早と目が合った。今は何も言わない方がいいとわかっている。しかし無視するのも気まずく、私は佐久早に数歩近付いた。口を開いたのは佐久早の方だった。
「わざわざ応援に来てくれたのに勝てなくて悪かったな」
生ぬるい風が私達の間を吹き抜ける。そういえばもう少しで夏が終わる。結局夏の思い出らしいことはひとつもしなかった。強いて言えば、佐久早とこうして話していることだろうか。
「……ありがとう」
佐久早はらしくもなく眉を下げて礼を言った。佐久早自身が殻を破ったのだと、私はすぐに気が付いた。励ましや礼など、私が言うべきことは沢山あっただろうが、出てきたのはおよそこの場に相応しくない一言だった。
「私も好きだよ」
佐久早の表情が一変、疑うようなものになる。今の佐久早は負けた当初よりも不快をあらわにしていた。
「いつ俺がお前を好きだと言った」
とは言いつつも、好きではないと否定しないあたり本心なのだろう。私の見立ては当たっていたようだ。上機嫌の私を見て、佐久早は諦めたようにため息をついた。
「付き合うならもっとちゃんとした時にさせろ。今日はもう言わない」
付き合った記念日が負けた日というのは佐久早も嫌なのだろう。付き合う流れに逆らわず、私も頷く。
「楽しみにしとく」
すると佐久早は背を向け、控室に向かって歩き出した。夏休みはあと少しある。一体私達はいつ、結ばれるのだろうか。夏の楽しみはまだとっておく。
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