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「あの、告白してもいいかな?」

 そう言う苗字に佐久早は面食らった。今まで告白してきた女子はいたが、告白の許可をとる女子は初めてだ。

「何でそんなことを聞くんだ」

 佐久早が尋ねると、苗字は恥ずかしそうに体をくねらせる。

「前に佐久早君告白を迷惑って断ってたから……」

 記憶を遡り、ああと合点する。少し前に、ミーハー丸出しで告白してきた輩がいたのだ。

「あれは大勢の前だったからだ」

 一応事実は言ったものの、苗字は納得していないようだった。このままでは告白しないかもしれない。などと、佐久早はこの時点で焦りを感じていたのだ。だがそのまま放置されてみれば、焦りは増す一方だった。佐久早のことを好きな女子がいることはわかっているのに、告白はない。まるでクラウチングスタートの姿勢をとったままピストルが鳴るのを永遠に待っているかのようだった。先に痺れをきらしたのは佐久早だ。

「おい、何で告白してこないんだ!」

 廊下で苗字を引っ掴み、無理やり佐久早の方へ向けた。苗字は慌てた様子もない。この間の恥ずかしがりようはどこへ行ったというのか。

「え、覚悟がまだで」
「俺を待たせる度胸はあるくせに何言ってんだよ」

 思わず突っ込んでしまう。すると苗字は萎縮してしまったようで、手で顔を覆った。

「やっぱり勇気が出ないです!」

 そのまま佐久早の手を逃れ脱走しようとする。佐久早は思わず叫んだ。

「待て! 告白しろ!」

 佐久早に周りの人は見えていない。側から見たら佐久早が告白しているようになっていることすら、気付かなかった。