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 私がインターハイを観に行くと言うと、目の前の牛島君は眉を動かしてみせた。

「苗字がインターハイに? お前はそんなにバレーが好きだったのか」
「いや、バレーが好きなわけではなくて……」
「では何故観に行く」

 私は言葉に詰まる。今年のインターハイは東京開催だった。県内で行われる予選を観に行くのは簡単だが、新幹線に乗って東京まで行くのはそれなりに労を要する。牛島君は私が何故そこまでしてインターハイを観に行くのか不思議に思っているようだった。私が牛島君を好いていることは知っているくせに、そういう所は疎いのだからもどかしい。すると横から現れた天童君が牛島君の肩を掴んだ。

「もー! 苗字ちゃんが好きなのはバレーじゃなくて若利君デショ! わかってるくせに何言わせようとしてんのさ」
「ああ、そうだったな」

 牛島君はようやく合点が行った様子だ。このやりとりを目の前で聞かせられるのだから、私は顔から火が出そうになる。

「だがそれなら何故東京まで行く? 宮城でも俺は見られるだろう。普通の俺では駄目なのか」
「それはやっぱり、牛島君の晴れ舞台を見に行きたいっていうか……」
「つまりバレーをしている俺は好きだが普段の俺には興味がないということか?」

 知らない間に私は責められているような気持ちになる。一方的に気持ちを知られているということが、こんなに私の立場を弱くさせるのだろうか。ここはどんな牛島君でも好きだと言うべきかと考えて、それでは重すぎるかと思いとどまる。

「若利君さぁ、苗字ちゃんの気持ちには応えてあげないくせに苗字ちゃんには結構なこと要求するよねぇ……」

 天童君は目を細めて呟く。牛島君は私が牛島君を好きなことを知っているくせに、交際に発展させたり一息に振ったりしない。言わば放し飼いのような状態なのだ。そのくせたまに餌をあげて主人は自分だと主張するのだからずるい。私が牛島君を見上げると、牛島君は天童君に反論するように口を開いた。

「俺が苗字の気持ちに応えないのは苗字から面と向かって好きだと告白されたことがないからだ。言われれば応える。苗字、今すぐ告白しろ」
「ええっ!?」

 もう気持ちは知られている以上、タイミングが掴めずにずっと先延ばしにしていた。しかしこんな小さな言い合いの中で、相手本人から告白を要求されることがあるだろうか。

「どうした、言えないのか」

 牛島君はまさに主人のような貫禄を持って私を見下ろす。主人に命令されては、たとえ天童君が面白そうに目を輝かせる中でも私は人生初の告白をするしかないのだった。