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 四皇と戦うにおいて、課題となったのはこちらの戦力だった。海賊同盟を組んだといえど、元の船員がそれぞれ多くないので人数が爆発的に増えたわけではない。

「うちは二十人しかいねェからこの先大変かもな」

 ぼそりと呟いたローに、名前が反応した。その瞳は何かを恐れるように揺れている。

「キャ……キャプテン、クルーを増やすんですか?」
「この先そうなるだろう」

 ローは神妙な顔をしている。名前との温度差が不釣り合いだ。いや、名前も名前で真剣ではあるのだけど。名前は拳を握り、ローの前に躍り出た。

「私頑張って十人は産みます! 十一人目からはその後考えましょう!」

 ローは表情こそ変えないものの、内心かなり驚いたのではないだろうか。出産とはプライベートな話である。動揺したのは自分の部下だからか、それとも名前だからか。

「お前は何を言ってる」

 話が見えずに言うと、名前はきょとんと目を瞬いた。

「ビッグマムみたいに結婚と出産で増やすんじゃないんですか?」

 ローは息を吐き、刀を担ぎ直す。長い刀はローの体によく馴染んでいるように見えた。同じ船に乗っていると忘れそうになるが、ローは海賊なのだ。

「突っ込みてェ所はいくつかあるが……おれがその気なら強い女を選ぶ。クルーを作るのにお前みてェな弱い女は選ばねェ」

 名前がショックを受ける。しかしローは構わずに話を続けた。

「あとおれが他の選択肢なく十年間お前につきっきり前提にするな」

 それが一番言いたいことではなかったのだろうか。ローは睨むような真似をした。恐らく名前に勝手に好きだと思われることが嫌だったのだろう。実際どうであるかは置いておくとして。

「でもキャプテンに一夫多妻なんてできるんですか?」

 何の悪意もなく言ってみせた名前の頭を、ローは大きな手のひらで掴む。

「お前に言われたかねェよ……」

「痛い! 痛い!」という名前の言葉を無視して、ローは何秒か締め付けた後解放した。恋愛もしたことなさそうな名前に、ローの恋愛を心配されたくはない。ローは鼻を鳴らし、甲板を去って行った。