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 若利のプロポーズは突飛なものだった。二人で若利の家にいる時、急に拳を出されたのだ。

「お前は俺を幸せにする。一生一緒にいてくれ」

 私は間を置いてから、それがプロポーズであると理解した。若利の手のひらからは、二人分の指輪が出てきた。照明の光を受けて輝くそれを見つめる。通常、プロポーズとは自分が相手を幸せにすると言うはずだ。ところが若利は、私が若利を幸せにすると言った。

「普通逆じゃない?」

 私が言うと、若利は微動だにしないまま返した。

「俺が幸せならお前も幸せなはずだ」

 この自信がたまに憎くなる。だが実際その通りなのだから何も言えない。若利が幸せでいるための道具になることも、若利が幸せなら私も幸せになることも、私はそのまま受け入れてしまうのだろう。私は指輪を一個とり、若利の左手の薬指にはめた。それは若利の指によく収まった。若利のことだから、私の指にもぴったりのものを買ってきたのだろう。私は手を出したまま待つ。

「若利がはめてくれるの待ってるんだけど」

 ただでさえ私からはめるような真似をしたのだ。これでは若利がはめてくれなくては格好がつかない。

「お前に指輪をはめるのは結婚式まで待つ」

 お固い若利らしいと言えばそうだが、私は何も返事をしていないのに結婚すると思っているところがまた反抗心を擽る。とはいえこの場で断るという選択肢はなく、私は指輪をはめた若利を見たまま寂しい薬指を弄ぶのだった。